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- 福泉 靖史
- 2020-11-13
- 7 min read
新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた頃、世界的な課題であった「気候変動」の優先度は下がっていきました。その後、ロックダウンがとられ、世界経済は停滞。しかし、それは一方で、想定以上のスピードでエネルギー転換するチャンスを私たちにもたらしました。
実際、2020年の第1四半期には、輸送、航空、一般の経済活動が劇的に減少。その結果、エネルギー需要は4%近く、排出量は5%も減少することができました。
仮に私たちが、「いつも通り」の暮らしを続けていれば、この数値を達成することは難しかったかもしれません。そして、今後もある種の規制を続けていかなければ、この数字は簡単に元へと戻ってしまいます。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、この限られたチャンスをものにするために、私たちは2020年末までに今後の方針を定めなければなりません。そして、その方針において、エネルギー業界には「脱炭素化、分散化、デジタル化」の3つの動きをさらに加速することが求められるでしょう。

鉄鋼業は脱炭素化が難しい分野の一つです
第一の鍵「脱炭素化」
新型コロナウイルスが流行し、ビジネス領域におけるリモートワークや、工場での遠隔操作の導入が促進されました。この傾向は、特に将来的なリスクを回避する手段として、今後も続いていく可能性があります。こうした省エネルギーの活動が継続されれば、エネルギー消費量はこのまま順調に減少していくでしょう。
これと並行して、再生可能エネルギーの活用増加と電化も期待できます。実際、これらの影響を受けて、二酸化炭素を放出する化石燃料関連の投資は、すでに減少傾向にあります。
ちなみに、これは気候変動に対する取り組みを推進する意図もあるでしょうが、どちらかといえば、投資に対するリターンがかつてないほど減少しているためでしょう。石油価格の下落が続いていることから見ても明らかです。
このように順調に見える脱炭素化ですが、いま、2つの重要な課題に直面しています。1つ目の課題は、再生可能エネルギーによる供給の不安定さです。その対策として、各国は大規模な貯蔵技術の開発を推進。米国ユタ州で進められている世界最大規模の先進的クリーンエネルギー貯蔵プロジェクトもその一つです。
このプロジェクトでは、余剰再生可能エネルギーの貯蔵を、あらゆる方法で検討。その中には、水素を生成する電気分解プロセスに電力を供給する、という手法もあります。そして、この「水素」は、実はもう一方の課題でも活躍が期待されているのです。
2つ目の課題が、輸送や航空、製鉄、セメント製造といった分野でのCO₂排出量の削減です。これらの産業では電化やCO₂排出量の削減が難しいため、新たな活路を見出す必要があり、その一つが水素なのです。
各国政府は、水素への移行を支援する様々な政策打ち出しています。例えば、欧州委員会(EC)は、ニッチな水素市場を拡大するための戦略を発表したばかりです。
脱炭素化を実際に成功させるためには、世界中の国々・地域において、あらゆる方法を駆使して、排出量の削減を進めなければなりません。そのためには、先進国はもちろんですが、新興市場や発展途上市場の動向が気になるところです。経済成長の真っ只中において完全な脱炭素化が難しいからと後回しにするのではなく、中間段階として液化天然ガス(LNG)を活用することが重要と言えるでしょう。
発展途上国では、工業化や中産階級の増加、電力へのアクセス拡大が進み、その電力需要は2000年以降でほぼ3倍となりました。再生可能エネルギーと水素が成熟期に達するまでの間も、比較的クリーンなLNGを利用すれば、より一層の経済発展が遂げられるはずです。

エネルギーは消費者が選べる時代ー集中型のモデルから分散型へ
第二の鍵「分散化」
エネルギー転換を進めるために鍵となるのが、電力供給における「分散化」です。従来は、電力会社の持つ大規模な発電所からエンドユーザーにエネルギーを分配するという独占的な事業モデルを取ってきました。この形態を変えていかなければなりません。
そこで注目されているのが、「分散型エネルギー・ネットワーク」です。エネルギー消費者が自らのエネルギー・ポートフォリオを管理する、民主的なビジネスモデルです。その選択肢には、例えば、再生可能エネルギー、家庭や工場での自家発電、電池、燃料電池などが含まれます。しかし、このモデル転換も、そう容易ではありません。
従来の集中型モデルの仕組みは、至ってシンプルです。需要がピークに達すると、より多くの電力が生成され、分配される。一方、分散型システムでは、需要の変化に応じて、配電や電力網を管理する必要があります。エネルギー消費者や各種設備、需要パターンなど、膨大な調整を行わなければならないのです。
この課題への対処策を検討するため、一部の国や企業では、利用者にインセンティブを与えて、新しい市場メカニズムを実験してきました。コーンウォール地域エネルギー市場やバーモントグリーンが、その例です。

デジタル化が電力供給の分散化を加速させる
第三の鍵「デジタル化」
そして、こうした計画の成功に欠かせないのが、パンデミックを受けてさらに勢いを増している「デジタル化」なのです。
分散型システムのように、多種多様なエネルギー源の利用を管理するためには、高度な自動化と分析が欠かせません。
人工知能(AI)や機械学習、IoT、ブロックチェーンといった技術を活用することで、電力需要を分析し、分散型グリッドのどこからどれだけの電力を引き出すかという調整が可能となるのです。
さらに、多様なエネルギー供給者・消費者が個別に存在するなかで、統合的なネットワークを構築するためにも不可欠な技術があります。Hive、Google Nestといった家庭のエネルギー管理システム、仮想発電所(VPP)、三菱重工(MHI)グループの『Energy Cloud』のようなクラウドコンピューティングのソリューション、そして、発電所や送電網の仮想レプリカを作成する『Tomoni』のような「デジタルツイン」がそうです。
こうした技術の多くは、分散型ネットワークが浸透して落ち着く前に、規模を拡大し、標準化を進める必要があるでしょう。

正しい選択
重複となりますが、「炭素のリバウンド」を回避するためには、前述した3つの動向を迅速に進める必要があります。そのため、エネルギー企業や規制当局、政策立案者は、パンデミックからの景気回復と並行し、喫緊の優先課題としてこれらを推し進めなければなりません。三菱重工グループもその一員として、「脱炭素化、分散化、デジタル化」の推進に役立つ、様々なソリューションを積極的に開発し、顧客に提供しています。
従来のインフラを改造するのか、新たなエネルギーシステムをゼロから設計するのか。いずれの方法を取るにしても、これらの課題に対して世界が一丸となって前進するためには、「環境、経済、社会」それぞれの優先度合いのバランスを取ることが重要です。三菱重工が考案した『エネルギーインフラのためのQoEn指標』のような計量経済学的アプローチは、世界の各都市がこの微妙なバランスを判断するのに役立ちます。
こうした技術を活用すれば、より多くの政府や都市計画者が、環境への影響と経済的ニーズの双方にとって最適なエネルギーインフラを選択できるでしょう。政府や企業の取り組みをサポートするために、私たちは日々、技術を磨き続けます。