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- ジョニー・ウッド
- 2021-02-12
- 6 min read
ジョー・バイデン氏が「クリーンエネルギー革命」の実現に向け、壮大なビジョンを発表して以来、“気候サイエンス”は米国における最重要課題として再び注目されています。
第46代大統領に就任予定で、米国が2050年までにネットゼロエミッションの達成を掲げるジョー・バイデン氏。「彼のビジョンは民主党の一部が提案しているグリーン・ニューディール政策に及ばない可能性がある」と指摘する評論家がいるのも確かですが、2兆ドル規模ともいわれるバイデン氏の壮大な計画は、米国内外でクリーンエネルギーの成長を加速させるポテンシャルを秘めているのも事実です。
それでは一体、バイデン氏のエネルギー政策とはどのようなものなのでしょうか。彼が実現に向けて動く5つの項目を、ここで紹介します。
1. 2050年までにネットゼロエミッションを実現する
この目的を達成するためには、まず、気候への影響をさらに考慮した政策決定を打ち出すことが求められます。バイデン氏は、化石燃料の使用を促進させてしまう現在の政策を抜本的に見直すと表明済みです。具体的には、連邦補助金の廃止、新規および既存の石油・ガスプロジェクトに対するメタン排出制限、電力会社に対する排出削減の義務化などを実施するとしています。
さらに、バイデン氏は、国内の主要な化石燃料関連プロジェクトにも疑問が投げかけています。その一つが「キーストーンXLパイプライン」の建設です。これは、カナダから米国の製油所へと、石油とビチューメン(瀝青)を輸送するために設計されたものです。バイデン氏は、このプロジェクトに出されていた認可を取り消す意向を示しています。このようにして、米連邦準備制度や、より広範な金融制度において、気候変動を考慮したプロジェクトを優先することを保証することができれば、投資家の目を炭素集約型のプロジェクトから他へと向かわせる効果も期待できるでしょう。
さらに、バイデン氏は、新たな立法案の一つとして、気候変動に関するパリ協定にも復帰すると表明済みです。加えて、クリーンエネルギー技術開発のみに専念する新たな省庁横断型の研究イニシアチブを設立するとしています。
2. クリーンエネルギーとイノベーションへの大規模集中投資
気候変動に対して何も行動を起こさないことによる「環境コスト」と、よりクリーンなエネルギー源に移行するためにかかるコスト。その2つを比較検討した結果、バイデン氏は、クリーンエネルギーを活用したインフラ、交通、コミュニティの開発に対して、連邦政府から4年間で2兆ドルを投資することを決断しました。さらには、民間部門、州、地方への追加投資を通じて5兆ドルに増額することを提案。財源の大部分は、法人税率の引き上げなどの税制措置によるもので、クリーンエネルギー推進に向けたバイデン氏の強い意志をここからも感じとることができるでしょう。
また、バイデン氏のグリーンエネルギー・ビジョンにおいては、環境正義の必要性が特に強調されています。これに対する措置として、気候変動と汚染によって悪影響を受ける少数民族、低所得者、先住民族のコミュニティへの不平等を是正するために投資資金の40%が投じられる予定です。
3. 企業に対する罰則の強化
気候変動を中心に考えると、組織は事業やサプライチェーンで生じる環境コストを支払わなければなりません。
そのため、各企業には、温室効果ガス(GHG)の排出量と、自らが生み出す気候関連の財務リスクを開示することが求められます。さらには、気候変動に関する規則違反が発覚した場合、企業の幹部が個人的に責任を負う旨が記載された法律も新たに制定されました。その違反内容によっては禁固などの罰則を科される可能性もあります。
これは、30年間で米国環境保護庁(EPA)が環境汚染事例を司法制度に照会した数が、過去最低を記録した期間を振り返ると、想像もできなかったことでしょう。
4. クリーンエネルギー関連の高額報酬雇用を数百万件創出
バイデン氏は、クリーンエネルギーを活用した、インフラ整備プロジェクトと無炭素経済への発展を通じて1,000万人の雇用を創出したいと考えています。これには、道路、水道システム、電力網、ブロードバンドネットワークといった米国インフラの再活性化や、150万戸に及ぶ持続可能な新しい住宅建設も含まれます。さらには、ハイブリッド車や電気自動車(EV)の生産奨励、公共交通機関の増加といった排出ガス削減に向けた動きも、新たな雇用へとつながるでしょう。
このように、2035年までのゼロ・エミッション電力部門への転換は就職市場の活性化につながることが予想されます。しかしながら、従来の化石燃料部門がそれらに取って代わられることを忘れてはいけません。雇用をはじめとした、いかなるメリットも、同時に発生する損失と合わせて考えられるべきなのです。
例えば、米国のシェールガス産業は雇用と歳入を支えていますが、その一方で、フラッキング(水圧破砕)と呼ばれる採掘工法は、環境保護主義者から大きな非難を浴びています。現状でバイデン氏は、この採掘工法を禁止していませんが、連邦政府の所有地での新たなフラッキング計画を阻止するという議論が進められており、この産業で働く人たちにとって大きな懸念材料となっています。
5. 環境の不平等を是正するための連邦政府機関への権限付与
気候変動は、すべての人たちに影響を与えます。しかし、これを、健康、経済的幸福、日常生活に特化して見た場合、その影響は少数民族や低所得のコミュニティ、部族の土地でより大きくなることが研究で示されています。
この不均衡に取り組むため、バイデン氏はあらゆる連邦機関で環境正義を優先事項に設定するつもりです。これにより、これらの米連邦機関は、地域社会に悪影響を及ぼす環境問題に対して解決策を見つける責任を負うことになります。そして、この取り組みを確実に結果へと結びつけるために、連邦政府が責任を持つことになります。
バイデン氏が新大統領に就任すれば、気候変動との闘いが最重要ミッションとなります。しかし、その計画は、どれほどの政治的協力を得られるのか。そして、どこまで実現することができるのか。彼の長く険しい旅はまだ始まったばかりです。
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