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- ジョニー・ウッド
- 2021-03-10
- 8 min read
持続可能なエネルギーの活用を長期にわたってリードする欧州。今日では、他国に先んじてネットゼロに関する公約を宣言し、国家経済全体の「グリーン化」を目指しています。 その先駆的な行動の背景には、他国から輸入した化石燃料へのエネルギー依存度の高さとそれに伴う高額な出費、そして炭素排出量の削減に対する意識の高まりがありました。これらの要因を鑑みて、再生可能な天然資源の活用に向けて、欧州は独自に動き出したのです。公約を最初に発表したのは、欧州連合(EU)の一部の国と、英国やノルウェーといったエネルギー(政策)にかかわる知見が豊富な近隣諸国でした。中には、これらの目標を法制化した国もありました。 しかし、再生可能エネルギーを単純に活用するだけでは持続可能な未来を実現することはできません。そのための鍵となるのが、公共輸送および民間輸送の電化や、再生可能エネルギーの活用を促進するための水素プロジェクトと二酸化炭素(CO₂) の回収・有効利用・貯留(CCUS)プロジェクトの開発です。 こうした様々な取り組みが全世界で動き出すにつれて、欧州各国のクリーンエネルギーに対する熱意は、欧州をどのような行動へと移行させるのでしょうか。そして、その中で、どのような課題が待ち受けているのでしょうか。 その答えを導くために、まずは、欧州をはじめ、世界各国がネットゼロに向けてその意思を表明したあたりから順を追って見ていきましょう。
変化を受け入れる
世界で公約を初めて表明したのはスウェーデンです。2045年までにネットゼロを達成する意向を2017年に表明し、法的拘束力のある気候目標を示した最初の国となりました。その2年後、これに続いたのが英国です。2050年までにネットゼロを達成する旨の法律を新たに制定。フランスとデンマークがすぐ後を追う格好となりました。
その後は、米国のジョー・バイデン新大統領が2050年までのネットゼロを宣言したほか、中国も2060年までの達成を表明するなど、気候変動に関する公約が世界各地で相次いで発表されました。
このような意識の高まりは喜ばしいことですが、重要なのは実現に向けて実際に行動に移すことです。例えば、欧州連合(EU)では、「温室効果ガス(GHG)の純排出量を今後10年以内に1990年比で55%削減する」という法的拘束力のある目標を掲げ、欧州の指導者たちは、これに合意しました。
この数的目標を実現するためには、やはり、再生可能エネルギーだけに頼るだけでは力不足でしょう。今後は新技術の開発にも注力しなければなりません。
水素の活用
新技術の一つと言えるのが水素の活用です。水素は、欧州の今後のエネルギー計画で重要な役割を果たします。化石燃料に取って代わり、暖房、運輸、重工業などの電化が難しい部門にも電力を供給できる可能性があり、その上、燃焼時には水しか出しません。
水素の活用が進めば、従来の燃料への依存率を下げ、代わりに再生可能エネルギーの占める割合を高めることができます。確かに現時点では、欧州のエネルギーミックスに占める水素の割合は2%にすら達していません。しかし、欧州委員会の水素戦略によれば、今世紀半ばまでにその割合は13~14%にまで達する可能性があるといいます。
実際、水素プロジェクト開発は、欧州の各地ですでに進められています。その一つが、北東イングランドにあるゼロ・カーボン・ハンバーと呼ばれる産業クラスターです。そこには、製鋼から化学品製造まで複数の重工業が集中しています。
このプロジェクトの目的は大きく2つあります。1つは、産業プロセスで使用される燃料を低炭素の「ブルー」水素(天然ガスから生成された水素で、その過程で排出したCO₂をCCUSで捕捉されるものを指します)に切り替えること。そして、もう1つは、産業プロセスにおいて排出されたCO₂を捕捉して、北海の海底に永久保存することです。
北欧最大のエネルギー企業であるエクイノールでUK低炭素戦略担当取締役を任され、このプロジェクトにも携わるDan Sadler氏はこう語ります。「ハンバーは、地場産業であることや、その大きさ、地質、地理的条件から、水素プロジェクトに最適な環境といえます。しかし、ハンバーに限らず、すべての産業クラスターにも水素を配備することはできます。私たちがハンバーでやっていることは、世界中の他の産業クラスターでも、それぞれの規模とエンドユーザーのいる市場にも合わせて調整すれば、簡単に真似してもらえるはずです」。
水素への期待が高まる一方で、天然ガスのような燃料に対してコスト面でも競争力を持つには、まだ時間が必要でしょう。しかし、単にコストといっても、それにはいくつか種類があります。例えば、英国が法的な強制力を持つ気候目標を達成するためには、電力を供給できない経済地域にもクリーンエネルギーを供給するための水素が必要です。
Sadler氏は続けます。「英国が制定した気候変動法の課題をみると、箱の中にあるすべてのツールが必要であり、現実的には、単にすべてを電化するだけでは解決できません。つまり、水素経済を発展させることが不可欠なのです。水素の導入は英国経済に数十億ポンドをもたらし、数十万人の新たな雇用を生み出す可能性を秘めているのです」。
ハンバー地域における水素インフラへの投資は、他の経済分野における水素活用の足掛かりにもなります。例えば、H21というプロジェクトにおいても、英国の炭素排出量の3分の1以上を占める暖房システムを脱炭素化するための燃料として水素に注目が集まっています。
Sadler氏は次のように総括しています。「最大の課題は技術ではありません。これらのプロジェクトを経済の中で着地させるためには、関連するビジネスモデルを確立することに加えて、政府がどのような舵取りをしていくかが鍵となるでしょう」。
政策における課題
その点で考えれば、持続可能なエネルギーに関する欧州の政治的姿勢は、過去を振り返ると、比較的強いものだったといえるでしょう。これまでも欧州各国の政府は、世界初の発電用風力タービンの本拠地として再生可能エネルギーのブームとクリーンエネルギー価格の下落を経験しながらも、革新的な税率支援政策を打ち出し、風力・太陽光発電プロジェクトの未来を切り拓いてきました。
Mitsubishi Power EuropeのEU諸機関代表であるMaria Joao Duarte氏は、こうした成果を“再生可能エネルギーと温室効果ガス排出削減のための法的拘束力のある明確な目標と、資源の積極的な生産と消費を促す支援計画”を採択したEU指導者のおかげであると述べています。
今後、ベースロード発電、エネルギー集約型重工業、重量物輸送などの脱炭素化分野では、システム効率を高めるために、目標に向けて取り組む企業へのまとまった支援策と、行動を起こさない企業に対する明確な規制が必要となります。その点について、Duarte氏は「政策を検討する上では、国や経済分野を超えて連携し、一つの共通のアウトラインを作成すべきです。そうすれば、国や分野によって、その内容を個別に調整し、改めて展開せずに済みますから。また、政策を考える際には、再生可能エネルギーを生産する側と使う側、その双方にメリットがある内容にすることを決して忘れてはなりません」と述べています。
欧州委員会はこれまで、国際的に合意された基準を確立する必要性、そして、エネルギーシステム統合についてEU全体で総合的に考える必要性を強調してきました。
Duarte氏は、この点について、以下のように語っています。「提携や共同イニシアチブの機会が増えたことで、調整しやすい環境となってきています。政府や産業界、市民社会、そして重要なのは、投資家の存在です」。
欧州のクリーンエネルギーへの先駆的な取り組みは、他の地域におけるネットゼロへの意識を高める可能性があります。しかし、それだけでなく、国民に向けて、より持続可能な行動の必要性を認識させることが重要です。「政策には、社会全体に変化を起こすだけでなく、消費者側の意識を高める役割があります」と、Duarte氏は強調しています。
風力や太陽光発電の分野で世界の先陣を切ってきた欧州は、水素やCCUS分野でも、その手腕を発揮できるのでしょうか。全世界が欧州の今後を注視しています。
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