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- ジョニー・ウッド
- 2020-08-31
- 5 min read
新型コロナウイルスの流行に伴う在宅勤務の増加やロックダウン(都市封鎖)によって世界のエネルギー需要が停滞しました。石油・ガス会社は、パンデミック以前に立てられた計画や予測を、すべて破棄せざるをえない状況となっています。
しかし、悪いことばかりではありません。このパンデミックによって、石油・ガス業界におけるクラウドコンピューティングやIoT(モノのインターネット)といったテクノロジーの導入は加速しました。以前からその動きはありましたが、世の中の状況を受けて、速やかな切り替えが必要となったのです。テクノロジー化への抵抗は、試用段階にあった多くのデジタルイノベーションの急速な挽回に取って代わられることになりました。
BloombergNEFによれば、石油・ガス業界がより高度な分析に費やす金額は、今後10年間で約3倍に膨らむと予測。クラウドコンピューティングについては、2019年の13億ドルから、2030年までに125億ドルへと飛躍的に増加するとみられています。
予期せぬ流れでありながらも、こうしてデジタルソリューションの活用が進むことで、生産性は向上。石油・ガス部門のサステナブルな取り組みは、今後、ますます加速することになるでしょう。
信頼の構築
リモートワークにおいて、同僚との対話や顧客支援のほか、通常勤務に近い形で業務を遂行するために、デジタルプラットフォームへの依存は大きく増加しました。このようにデジタルテクノロジーが身近な存在となるにつれ、それに対する信頼性も高まっています。
さらに、クラウドベースシステムとIoTコネクティビティを組み合わせることで、センサー技術活用の新たな扉が開かれています。具体的には、これまでにない莫大なデータの収集が可能となり、運用における合理化と自動化が実現。これに人工知能 (AI) と機械学習を組み込めば、事前に不足を予測できるデジタルサプライチェーンや、あらゆる分野のパフォーマンスをリアルタイムで調査、監視、最適化する統合システムなど、幅広い可能性が秘められています。
Boston Consulting Groupがこの厳しい時代の鍵として強調しているのが、「デジタルツイン」技術。石油・ガスのインフラ構造とその構成要素のレプリカをデジタル上で作成、運用データを使用したリアルタイムのテストと分析を行うことが可能です。この技術を活用すれば、実際のプロセスを中断することなく最適化し、コストを削減することができます。
遠隔作業とロボット
前述のような石油・ガス業界のデジタル化は、広範なエナジートランジションの一部です。炭素排出の削減に役立つ効率性と柔軟性を高めるために、様々な領域でデジタルシステムが採用されています。例えば、現在多くの国では、AIがエネルギー需要や天気予報に活用されています。そこで蓄積されたデータを用いて、再生可能エネルギー源によってまかなう電力量を予測。グリッドにおける需給のバランスを調整します。また、AIは従来の発電所でも利用されており、安定供給に向けてベースロード発電機からの切り替えが進んでいるようです。 現在の石油価格変動においても、システムによってインフラと資源をより効率的に利用することで、石油とガスの運用コストを削減。また、石油とガスのプラットフォームはリモートで運用できるため、洋上掘削装置についても、1つのコントロールセンターから複数の地点を監視することができます。運用要員やメンテナンス要員を遠隔地のリグに送り込む必要もなくなるため、安全性が向上し、オペレーションが削減され、輸送コストの削減につながります。さらにフライトが少なくなれば、サステナブルな取り組みも強化することができます。
そして、無人のリグや隔離された石油・ガス施設の日常点検やメンテナンス作業は、充電式の防爆型遠隔操作ロボットが担当します。例えば、三菱重工業 (MHI) グループでは、石油・ガスの漏れ、リグや工場のシステム障害を検知できる一連のロボットを開発中です。その中には、火災を処理するための消防ロボットや、バルブを運んだり、ドリルで穴を開けたり、扉を開閉したりすることで、危険な清掃作業を支援するロボットなどがあります。可燃性ガスが漏出する危険な現場をロボットが修復できれば、人間が危険に晒されることはありません。
他にも、石油・ガスインフラにおいて、立ち入り不可能な危険区域を検査するためのドローンから、エンジニアの遠隔教育に役立つVR(仮想現実)やAR(拡張現実)のヘッドセットまで、デジタル技術の応用例は枚挙にいとまがありません。デジタル化の加速は、石油・ガス分野をよりスピーディで、効率的で、統合されたものとし、そして何より重要な持続可能な分野へと変化させるのです。
確かに、デジタル化には多額の投資が必要となりますが、そのメリットはコストをはるかに上回ります。普及が加速する中で、デジタル化しない企業は、業界から姿を消すことになるかもしれません。
今後、国連が求めるパンデミックからの「よりよい復興」において、石油・ガス会社は、温暖化ガスネットゼロを後押しするという形できっと応えてくれることでしょう。
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