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Direct Air Captureは「グリーン」なオイルを生み出せるのか
- ジョニー・ウッド
- 2020-06-01
- 5 min read
新型コロナウイルス対策として実施されたロックダウン。それによる炭素排出量の減少は、一時的なものだと予想されています。しかし、これから経済回復が進むにつれて、世界は炭素排出による気候変動に対して、改めて腰を据えて取り組んでいかなければなりません。
世界はすでに、CO₂排出量を削減するだけでは、気候目標を達成できない段階へと足を踏み入れています。私たちが「ネットゼロ」を達成するためには、産業やエネルギー需要の増大に対応するため、すでに存在するCO₂を削減し、排出量を実質的に上回るようにしなければならないのです。
そこで注目されている技術のひとつが、『Direct Air Capture (DAC)』。排出量の増加を抑制、あるいは減少へと転じさせることが可能です。まだ初期段階の技術ではありますが、大気から炭素をろ過することができ、回収されたCO₂を産業界で使用すれば、炭素を循環させることが出来ます。「グリーン」オイルを生産する石油増進回収法は、その一例です。
このDAC技術において、空気中のCO₂を除去するというアイデア自体は、確かに新しいものではありません。評価されるべきは、これまで長年にわたり、潜水艦内の空間を浄化するためだけに使われてきたこの技術を、商用運用に拡大しようという挑戦的な試みでしょう。
回収技術
2017年にClimeworks社がアイスランドで実施したプロジェクト。そのプロジェクトでは、大気中から炭素を取り出して水と混合し、地中に注入することで、地質学的反応によってガスを石に変えることに成功。彼らはその技術の先駆者となりました。
この技術で回収できるCO₂の量は、米国の1世帯が排出する平均とほぼ同等の年間50トンで、効果については控えめと言えるでしょう。しかし、炭素回収にかかるコストが大幅に低下した(2011年時点でメートルトン当たり約600ドルだったものが、タイミングによっては3分の1以下に)ことから、この技術は複数のプロジェクトで採用。商業規模での活用に向けて、すでに準備が整っています。
未来への投資
石油・ガス業界は初期投資家で、ExxonMobil社やOccidental社などのエネルギー大手企業がプロジェクトを支援していました。DACの先駆者である、スタートアップ企業のGlobal Thermostat社は、10年にわたる環境調査を経て、2つのパイロットプロジェクトを進行。いずれも年間最大4,000トンものCO₂を回収することができます。ExxonMobilは、2019年にこのスタートアップとパートナーシップを締結。これまでとは比較にならない大規模なスケールで研究をスタートしました。現在の乏しい炭素回収能力を、年間10億トン (1ギガトン) に引き上げるため、大量の資金と専門知識を投入し、新たな施設の建設も進めています。
Global Thermostatのシステムは、具体的に言えば、炭素を抽出する物質を含んだ広い表面積の狭いチャネルを、取り込んだ空気に通過させるというもの。短時間に大量の空気を取り込むことができれば、競合他社のシステムよりも効率が上がり、コストの削減につながります。

Direct Air Capture のような技術は、二酸化炭素(CO₂)排出量の増加を抑えることができます
そこで工場では、巨大なファンを使用して、大量の空気を回収。空気は、CO₂をろ過する化学溶液を浸した波板の上を通過します。炭素を豊富に含んだ溶液は排水された後、生石灰にさらされ、石灰石ペレットを形成。石灰石ペレットを約1,000°Cに加熱することで、再利用可能な生石灰と、純粋なCO₂ガスが生成されます。ここで回収されたCO₂ガスは、貯蔵、または工業プロセスで利用されることになります。
炭素市場
Occidental社は、地下深くのプラントから回収した炭素をテキサス州の油田にポンプでくみ上げ、閉じ込められていた原油を回収する計画を考えていました。この計画において、炭素は地下にとどまるため、回収された原油は二酸化炭素収支がマイナスとなります。
しかし、COVID-19のパンデミックや、その他の市場ショックがエネルギー市場を揺るがし、価格の下落を引き起こすことに。Occidentalをはじめ、ベンチャー企業が進めていた「グリーン」オイルの生産は、市場の回復を待つことになってしまいました。
ですが、CO₂の利用は他にも様々な分野で進んでいます。今後、DAC業界の規模が拡大し、膨大な量のCO₂が回収されることも踏まえ、炭素市場は、石油・ガス、医療、食品・飲料などの用途で、2025年までに93億ドルに達すると予想されています。

合成燃料は、ガソリンやディーゼルに代わる低排出ガスの選択肢となるでしょう
石油・ガス業界においては、例えば、炭素はメタンのような合成燃料の製造に用いられ、ガソリンやディーゼルのような化石燃料に対する代替品を提供。航空、海運、その他の輸送手段のように、電化が困難な業界の脱炭素化を促進に力を貸してくれることでしょう。その他にも、石油化学業界では、プラスチック、肥料、工業ガスの生産に炭素が利用されています。
私たちに、気候変動に役立つ「特効薬」はありません。しかし、炭素排出量の削減における技術の革新はすでに始まっています。DACも、その技術のひとつ。今後はコストを削減しながら、いかに技術の適用を進められるかが課題となってくることでしょう。私たちは、少しずつネットゼロの実現へと近づいています。